福山さん(仮名)70代の男性です。肝臓癌の方です。
病院で診断を受けたときは、『後1カ月くらい』と、福山さん自身も説明を受けていました。
残された時間を知った福山さんは、「時間がない。。。」と話したそうです。
退院して、3カ月(診断から5カ月が経過)になろうとしています。
暖かくした部屋で、、、いつも、首元まで布団をしっかりとかけています。
布団の中は、半袖のシャツとパンツ型のオムツのみ。
体に寝衣がまとわりつくのも、トイレの時の上げ下ろしに時間がかかるのも気になるからです。
部屋に入ると、、、布団から出ているお顔の痩せが気になります。
声をかけますが、返事はありません。目を閉じています。
その表情から、しんどさがわかります。
「血圧 測らせてね」というと、無言で腕だけ布団から出してくれました。
「しんどいのにごめんね」と言いながら、観察をします。
頭元で奥さんとお姉さんが、ここ数日の様子を話してくれます。
福山さんは、「うるさい。。。」 「体、上げて」 「枕いれて」と。
話すのも辛いので、言葉が短くなります。
先生が部屋に入ってきて話しかけますが、、、やはり目を開けません。
「お腹、診せてよ・・・」
足やお腹だけでなく、胸の横まで浮腫みが強くなっています。
(尿や便は、たくさん出ているのですが・・・)
先生は奥さんの書いてくれている介護ノート📓を持って
奥さんとお姉さん、娘さんと一緒に、静かに部屋を出ていきました。
別室で、ご家族の気持ちをゆっくり聴きながら、お話をします。
全身の何とも言えない『えらさ』。。。(辛いです)
寝ている時間が長くなると、血液循環もさらに悪くなります。
以前、『癌患者さんの看護』の研修に参加した時、、、
『自分で体を動かせない辛さ』について
「壁に背を向けて立ち、頭の後ろ、肩甲骨、お尻、ふくらはぎ、踵を
壁にくっつけてみてください。その状態がずっと続くと想像してください」
と、講師の先生に教えてもらいました。(結構しんどいです)
その時『動かせない辛さ』を感じるとともに
体を動かしてもらうだけで、少し楽になるということも体感しました。
部屋に残った私は、、、目を閉じているので、びっくりさせないように声をかけます。
「福山さん、、、ちょっと 足を触らせてね」
毛布をそっと持ち上げて、足の下に手を入れ、足首を手で挟んで、あたためます。
「。。。触るだけかぁ。。。」 ぼそっと、つぶやきました。
「しんどいの 少しでもマシになったらいいんやけどね」と声をかけます。
寒くないように、布団から出ているところがないように注意しながら
ふくらはぎをゆっくりと揺らしていきます。
ふくらはぎが終わると、膝の裏、太もも
右足が終わると、左足を同様に、、、手であたためながら、揺らします。
・・・・・・・・・・沈黙・・・・・・・・・・
しばらくすると、、、
「ありがとさ~ん。。。」と声が。(『坂田稔夫さんのギャグ』です)
(気遣ってくれています)
「揺らしてるけど、大丈夫?」(目を閉じたまま返事は…なし)
・・・・・・・・・・沈黙・・・・・・・・・・
両足が終わると、お尻の下に手を入れます。
ゆっくりと、手のひらで持ち上げるように圧します。
腰、背中にも順に手を差し入れます。
先生がご家族と話しているうちに、全身のマッサージは終わりました。
呼吸が深くなり、よく眠っています。
足先を小さい毛布で包み、その上から布団をかけ直して
そっと、、、部屋を出ます。
しんどい時間が続くのは辛いことです。
ひとときでも
『少し楽だと感じられる』
『安心できる』
『ぐっと眠れる』 そんな時間があればいいなと思います。
ご家族とのお話を終えた先生は、もう一度、部屋をのぞきます。
眠っています。
小さな声で、「また、明日来るね。。。」と、福山さんに声をかけました。