森川さん(仮名)70代の女性です。
胃癌で1年前に胃の4/5を切除しています。
癌性腹膜炎(再発)のため、胃と腸のつなぎ目を越えたすぐのところで詰まっています(上部消化管腸閉塞)。
そのため飲み込んだものは残胃や食道に溜まります。
病院の医師からは、固形のものを食べることを止められていました。
栄養摂取が思うようにできず、高カロリーの点滴ができるようにと
一泊二日の予定で病院に入院し、CVポートを埋め込む手術※1をしました。
※1:CVポート(皮下埋め込み型中心静脈アクセスポート):心臓に近い太い静脈を中心静脈といい、そこにカテーテルを挿入し、ポートと呼ばれる液だまりに連結。ポートを皮下に埋め込み、必要時な時に針を挿して、栄養の高い点滴を行うことが可能になる。
退院してきた日です。
リクライニングチェアーに横になっている、森川さん。
先生の診察を終えて、しばらくすると
「。。。本当は帰ってきたくなかった。。。」と
消え入りそうな小さな声でつぶやきました。
ご主人が認知症を患っていました。
森川さんが退院しないと、ご主人は自宅で一人、、、
放っておけず、自分の体のことは二の次にして、退院を決めたのです。
「しんどいもんねぇ。それでも、ご主人のこと心配やったんよねぇ」と言うと
「私しかいないからね」と。
そこから、しばらく、ご主人の状況や、今までの介護についてお話をしてくれました。
先生は、そばについて静かに話を聴きます。
「、、、私がこんな病気(がん)になってしまって
その時に『あんたが病気になったから、お父さんの認知症が進んだ』って言われてね。。。
それが一番つらかった。。。」
「私、お父さんの認知症が恥ずかしいって思たことないの。みんなに知っておいてもらった方がいいのよね」
「お父さんを先に見送れるとよかったけど、私の方が先に逝くやろし
整理しておかないといけないこともあるしね」
今までお一人で抱えてきた思いを一気に話してくれました。
話し終わると、「あぁ~。すっきりした。他人にこんなに話すことなかったし
先生たちに聴いてもらえてよかったわ」と、笑顔になりました。
ご主人は、物忘れはありますが
ご飯を炊いたり、食事をしたり、洗濯をしたり、自分で身の回りのことはできます。
先生は、「ケアマネジャーさん、訪問看護師さん、ヘルパーさん
みんなの力借りて、助けてもらおう。
ご主人のことも、みんな助けてくれるからね。何でも言ってよ。
色々と気にはなると思うけど、まずは自分の体のこと考えようか」とお話しました。
娘さんは、海外に住んでおり、すぐに帰国することができません。
ご主人は、ご主人なりに、「できることをしよう」と頑張ってくれています。
それでも、ご主人お一人での介護は難しく
在宅療養を継続するのは簡単なことではありません。
森川さんは覚悟を決めて退院をしたのだと思います。
森川さんのこの覚悟に応えられるように
そして「家に帰ってきてよかった」と思ってもらえるように
『チーム森川』として、しっかりとサポートしないといけないと改めて感じました。
森川さん 「先生、明日も来てもらえますか?」
先生 「来るよ。。。」