和歌山市内の在宅療養支援診療所

お知らせ
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家に帰りたいけれど ①彼女の一言

新谷さん(仮名)は80代の女性です。

大腸癌の多発肝転移を認めており、外来で抗がん剤治療を行ってきました。

ある日、起き上がった時に腰痛が悪化し、身動きができなくなりました。

そのため衰弱が進み、家ではどうすることもできなくなり、入院することになりました。

   

大腸癌としての生命予後は1カ月程度、、、(新谷さん自身も知っています)

突然の腰痛は腰椎の骨折によるものでしたが

腰痛で動けなくなったために、入院時に すでにお尻に床ずれ(褥瘡)もできていました。

ベッドから起き上がることは難しく、全身の衰弱も進んでいることから

抗がん剤治療を中止することになりました。

さらには癌の痛みがあり、医療用麻薬の貼り薬を使用していました。

コルセットを装着し、懸命のリハビリを行っていました。

     

退院支援室の看護師さんから連絡をいただき

訪問看護師さん、ケアマネージャーさんと一緒に退院前カンファレンスに伺いました。

同居されている長男さんご夫婦が同席してくれています。

   

主治医の先生が少し遅れるのでと、、、

まずは担当看護師の豊川さん(仮名)から、情報を教えてもらいます。

豊川さんは、新谷さんの入院に至るまでの経過、入院してからの治療状況や身体的・精神的な状態

ADL※1、褥瘡の状態や処置の方法を 写真を交えて説明してくれました。

吐き気があり、食がすすまないけれど、「アイスクリームなら食べられる」 など

わかりやすく話してくれます。

※1 ADL(Activities of Daily Living):移動・排泄・食事・更衣・洗面・入浴などの日常生活動作のこと。

   

看護情報提供書には、下記の内容が書かれていました。

①ご本人やご家族が予後告知を受けており

 「好きな果物やアイスを食べたり、テレビを見ながらうとうととしたり、穏やかに過ごしたい」

 「自宅にある物品を整理したり、ひ孫にも会いたい」と。

 残された時間をどのように過ごしたいのかという新谷さん自身の希望について

②病気が進むにつれて、腸閉塞になる可能性があるため、排便コントロールの必要性と現在の排泄状況について

③長男のお嫁さんが頚椎症の持病があり、オムツ交換や体を使って行う援助には、負担が大きいこと

 その負担を軽減するための具体的な方法を、このカンファレンスで検討をしたいと。

                             

    

豊川さんは、私たち在宅チームのメンバーが質問したことに

電子カルテを見ることなく、的確に答えてくれました。

話し合いを終えて、最後に主治医の先生から病状の説明を受けて、退院前カンファレンスが終了しました。

豊川さんは、すぐに訪問看護師さんと最終確認を行っています。

    

20代と思われる豊川さんですが、入院中だけでなく

これから先のことも踏まえたうえで

新谷さんとご家族に、親身に関わられていることが伝わってきます。

そこには、担当看護師としての責任感を感じます。

    

病室への移動中、エレベーターの中で、、、

私が退院支援室の看護師さんに

「担当の豊川さん、、、彼女 本当にしっかりされていますね。

私が言うのもなんですが、いい看護師さんで頼もしいですね」と話していると

(教員をしていたもので、ついつい…)

          

長男さんが

「彼女の一言で、自宅で看る決心がついたんです」

「介護負担が大きくて、介護保険の申請も時間がかかるって前に聞いてて

 家で看るのは無理で、やっぱり病院の方がいいかと思って母を入院させたんですけど…」

「でも、色々と話を聴いてくれて

 サポートしてくれる方々がいるから大丈夫って。

 その方が 母にとってもいいと思えたんで、退院を決めたんです」

「彼女のお陰なんです」 と教えてくれました。

      

新谷さんの『家に帰りたい』という気持ちやご家族の思いも大切にし

実現するには、何が必要かを考えながらの豊川さんの関わりでした。

               

ここにも、『アンサング・シンデレラ』がいたことを嬉しく思います。

「豊川さん! しっかりバトンを受けとりました!」

在宅チームにつないでくれたことに感謝です。