昨冬のある日、
クリニックに戻ると14時過ぎ...
少し遅い昼食を済ませ、ホッと一息ついていると
○○さんの奥さんが、クリニックに来てくれました。
『城北の杜 愛』の書を見ています。
「ホームページに載っていた書やね。
字から『生きる力』を感じるねぇ... すごいね。
これを書くのに 何度も 何度も 考えて、頑張って書いたんやね。
目標、持つって大事よねぇ」と。
○○さんの奥さんは、認知症のご主人を長年介護されてきました。
「先生、人生会議してもらって良かったわ。
肺炎起こしても、病院から帰ってから 何度も何度も復活したし、食べるし、歩けるし...
その姿見てたらね、いずれ最期は来ると思っていても、そんなに実感なかったんよね。
でも、人生会議で説明してもらって、今までの経過と照らし合わせると
まったくその通りやし、お父さんの状態が良く分かったわ...
妻として、やってあげたいという思いはあっても
お父さんにとってどうすることが一番いいのか...
はっきりどうして欲しいとは言ってくれないけど、○○さん(※奥さんはご主人を下の名前で呼びます)だったらどうしたいと思うか...
息子や娘も一緒に、家族みんなで考えることできたしね。
(状態が)悪くなった時も、先生が(人生会議で)言ってたなぁと思って、対応できたし良かったよ」
と話してくれました。
「こういう在宅での医療ができるなら、医者という職業を選ぶのもいいと思った」と、息子さんが話されていたことも後日教えてくれました。
さかのぼること6か月前...
○○さんは肺炎が悪化し入院しましたが、奥さんは病院を早々に退院させて自宅でみることを決意してくれました。
(※2020.12.11「つぶやき」「ブログ」参照)
自宅に帰ってきたとき、○○さんの枕元で、先生と奥さんが話しています。
今後、肺炎を繰り返すことが予測されるため、
どうすることが○○さんにとっていいのか考える時期であることをお伝えし、
肺炎を繰り返すなら食べさせないのか、
食べられないなら、胃瘻を作って栄養を入れるのか、
食べられないなら、点滴を続けていくのか、
家族みんなで話し合おうと相談していました。
と、その時です。
○○さんがパッと目を見開いて
「余計なことはせんでいい!」と、先生の方を見て はっきりと言いました。
認知症の方が意思決定をできないと決めつけてしまうのは、間違いです。
聞き方を工夫することで、意思決定も可能であると言われています。
まさに、その通りです。○○さんは、自分で選んだのです。
後日自宅で、「余計なことはせんでいい」と言った○○さんの気持ちも慮りながら
奥さん、息子さん、娘さん、そして先生と訪問看護師さん
みんなで『○○さんの人生会議』を行いました。
思えば、昨年の4月、
奥さんが、クリニックに来てくださり訪問診療が始まりました。
奥さんは、クリニックの相談外来に来てくれた最初の方で、
○○さんの認知症の発症からの経緯、介護の状況、その時々の思い
そして今後どうしていきたいのか 等々
涙ながらに、たくさん話してくれました。
(後日、奥さんはこの日何を話したかは覚えていない。ただただよく頑張ったねと言われたことだけを覚えていると言われていました。)
それから9か月------------------------
○○さんやご家族と一緒に過ごさせたもらった日々
その大切な時間を思い出しながら...
しばらくの間、思い出話に花が咲きました。
○○さんの『生きる力』もすごかったです。。。
追伸
ある時、○○さんは奥さんのことを、『親切にしてくれる人』だと表現しました。
「あたりまえのことをしているだけよ」と奥さんはいつも言ってましたが、献身的な介護です。
そんな奥さんの愛情を、○○さんは十分に感じとっていました。
『妻』とは表現しませんが、『親切にしてくれる人』は
愛する妻への最大の賛辞であり感謝の言葉ではないでしょうか。。。
奥さんを見たときの○○さんの笑顔と安心した表情が、それを物語っています。