和歌山市内の在宅療養支援診療所

お知らせ
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マイペース  ④母から娘へ

ある日のこと

部屋の明かりがついていないので、そ~っと少しだけ襖戸をあけます。

さよ子さん(仮名)は、ベッドの横のポータブルトイレに座っています。

(声はかけずに見守ります)

 

排尿が終わり、自分でなんとか立ち上がりました。

(このタイミングで、「こんにちは」と声をかけて部屋に入ります)

ベッドの柵を持って、自分でベッドに戻りました。

浮腫んだ左足が重くて、ベッドの上に足を持ち上げられません。

足を持ち上げるのだけを手伝いました。

以前と比べて、足の力が落ちてきました。

   

本来は、ベッドもポータブルトイレも、足の裏がきちんと床につく高さに合わせます。

筋力の低下がすすむと、それよりもう少し高くすると、立ち上がりが楽になります。

    

ポータブルトイレの取扱説明書が見つからず

娘さんと二人でどうすると高さが変えられるのかと思案している(壊してしまうと大変だからです)と、

先生が入ってきました。

その二人の様子を見て、先生が「取扱説明書なくても、分かるよ」と

ポータブルトイレをひっくり返して分解し始めました。

      

私はその間に、さよ子さんのバイタルサイン(体温、血圧、脈拍、呼吸状態)を測ります。

さよ子さんは、ベッドに横になったまま

ポータブルトイレを先生が調節しているのをじっと見ています。

私が「とってもいいポータブルトイレやもんね」と言うと

「介護保険を使ったら1割で買えるしね。安くなるから、いいポータブルトイレに

しようって、選んだんよね」と娘さんが話してくれました。

(…ちょっと間があいて…)

「いいポータブルトイレでしょう。私が亡くなったら、娘に譲ろうと思ってね」と、にっこり。

娘さんは「え~。ポータブルトイレ 譲られても。。。」と。

     

母から娘に受け継がれるもの。。。 「ポータブルトイレ」   ちょっと笑ってしまいました。

     

家具調のポータブルトイレは、本当にしっかりとしたいいもので、

自分一人で終わるのはもったいないと思っているのだと思います。

「私が使う頃には、もっといいのが出てるわよ」と娘さん。

 

先生が「最初、ポータブルトイレって知らんかったんよ」と話します。

そうなんです。

昨年の4月、あるお宅でのことです。

先生が部屋に入ってくると、

「おはよう! いい椅子やなぁ」と言って、おもむろにポータブルトイレの座面に座りました。

その横で、患者さんの血圧を測っていた私が「先生それ、ポータブルトイレよ…」とぼそっと言いました。

「え~っ! これトイレなの???」

先生は初めて見る『家具調のポータブルトイレ』にびっくり!!

(病院でみてきた『ポータブルトイレ』とは、違うからでしょうね)

これが、先生が初めて『家具調のポータブルトイレ』に出会った瞬間です。

   

そんな話をしていると

先生が「さあ、できたよ。これで立ち上がりやすくなると思うわ」と。

一度試してもらいます。

さよ子さんはゆっくりと起き上がって、もう一度ポータブルトイレに座り、立ち上がります。

「あぁ、、 楽になったねぇ。ありがとう」と。

  

家だと皆さんギリギリまで自分の足で歩いてトイレに行きます。

「自分のできることをできるだけ続ける」それが大切なのだと改めて感じます。

「転倒したら大変…」と、ついつい私たちは手を出しがちですが

さよ子さんが自分でできるように、根気よく見守ってくれている娘さんもすごいです。