「○○○さん」
いつものように下のお名前で声をかけます。
手首で脈を探しますが、触れません。
あえいでいるかのように、※小さな声が漏れ出ます。呼吸は不規則です。
(※息を吐くときに声帯が震えて音が出ます。笛の原理です。患者さんが苦しいから発声しているのではありません。)
声は漏れていますが、苦痛な表情はなく穏やかでした。
手が少し冷たいので、手を握ってあたためます。
いつも「あったかぁ~い。気持ちいいねぇ」と言ってくれていました。
○○○さんを囲んで、ご主人と娘さんと一緒にお話をします。
「京都の病院へは、僕と一緒にいつも車で行ってたんよ」
「○○○の好きな音楽聴きながらね...」
「『面影』...Gメン’75のテーマソング 好きだったんよ」
先生はその歌を知らないと言います。
ご主人が、スマホで『面影』を聴かせてくれました。
♪いつかきた道 あの街かどに
ひとり求める 思い出いずこ
あぁ 一度だけ 恋して燃えたぁ~
・・・
歌が流れると、手首の脈が触れ始めました。
眼は閉じたままですが
「聴こえてるよ...」と言っているかのように、、、
『大阪ラプソディー』が流れます。
♬あの人もこの人も
そぞろ歩く宵の街
どこへ行く二人づれ
御堂筋は恋の道
・・・
不思議です。
あえいでいた声が少し高くなり、鼻歌のように音楽に合わせています。
「ハミングしてるみたいやねぇ~」
「結婚してすぐの頃。掃除機かけながら、ぶつぶつ言うてるって思ったら
歌を唄ってたんよね... あんまり上手じゃないんよねぇ...」
ご主人が懐かしそうに話してくれました。
---「いらん事 言わんといて!」と聞こえたような気がします。。
京都の病院に行くときは、病院の思い出しか残らないのは辛いから
受診の後、二人でいろんなところを観光してまわったんだと
娘さんが教えてくれました。
デートですね。
「乙女心が...」とお話して下さるお茶目でかわいい○○○さんらしい。
病気とどう向き合ってきたのか... それが少しわかった時間です。