この日も、先生が奥さんを奥の台所に連れて行きました。
介護をするご家族も 覚悟はしていても
やはり辛くなったり、しんどくなったり…
ご本人のそばでは言えないこともあります。泣きたくなることもあるはずです。
先生が奥さんのお気持ちを聴いています。
(多分、いろんなお話をしていると思います。)
私は、○○さんと... ケアをさせてもらいながら、お話をします。
口の中をスポンジブラシで拭いてきれいにします。
口唇が乾燥して切れているので、薬をそぉーっと塗ります。
オムツを確認して、尿取りパットを交換します。
おしも(陰部)をきれいに拭いて、軟膏を塗ります。
一度手を洗ってから、マッサージを始めます。
台所から奥さんの声が、時折聞こえてきます。(話している内容はわかりません。)
「ええんか? 話し始めたら止まらんぞ… 先生忙しいのに。
次、行かなあかんやろ。他の患者さんも待ってるやろ」と、心配してくれます。
「大丈夫。心配せんでいいよ。本当に時間が取れないときはそう言うから…」
「そうか…」
マッサージをしていると、色々と話してくれます。
「人様の大切な血液もらって、治療させてもらってるから…。頑張らなあかんねんけどな…」
「もらった血液は一滴も無駄にしたらあかん、申し訳ないやろ」
(血液のがんで輸血を週に数回行っていました。)
「息子からすると怖い父親やったやろな。 …今思うとちょっと厳しすぎたなぁ…」
「おかぁと二人で、よう釣りに行ったんや。良かったなぁ…。
もう一回、連れて行ってやりたいと思うけど… その力、今ないな…」
「毎日、先生も診に来てくれるし、○○君(女性の訪問看護師さん)も来てくれるから、
わしは幸せやけど… わしがおらんくなったら、おかぁが一人で寂しなると思うんや。
時間あったら、たまに寄ったってくれよ」
「訪問入浴かぁ。。。 そんな贅沢なこと、まだええわ」 などなど。。。
マッサージが終わって手を洗い、台所をのぞくと…
奥さんが「興ちゃん先生に泣かされたんよぅ」と言いながらも、笑っています。
(奥さんは、いつの頃からか『興ちゃん先生』と呼んでいます。)
お話を聴かせてもらうと
患者さんやご家族の病気や治療に対する考えや思い…
それだけではなく、今まで何を大切にしてきたのか
その人の考え方や生き方が伝わってきます。
「その人がその人らしく生きる」
そのことをしっかりと支えていける「城北の杜」でありたいといつも思います。
この日から、数日後、、、
かかわり始めてから、5カ月が過ぎようとしていました。輸血療法もそろそろ限界が近づいていました。
奥さんと息子さんに ベッドの傍に来てもらいます。
先生は、○○さんに これまで頑張ってきたこと、そして今おかれている状況について説明し、
輸血を続けるのか、止めるのかを ○○さんに、投げかけます。
「皆には申し訳ないけど、これ以上は、、、
もう、、、 輸血を止めようと思うんやけど、許してくれるか?
本当に今までありがとうよ」
延命治療になるから 『これ以上輸血はしない』と、○○さんは覚悟を決めました。
「もし、〇〇〇(妻の名前)が、いいって言うてくれるんやったら、最期までここで居てたいんや。
かまんか? お前が大変やったら、病院に入院するけど。。。」
「病院まで通う方が大変やから、私もお父さんここにいてくれる方がいいよ。私は大丈夫よ」と奥さん。
みんな、涙、涙、涙。。。
(先生が部屋からいなくなりました…??? 別室で泣いています。。。)
しばらくして…
「さあ、お風呂に入ろう? それぐらいの贅沢は大丈夫よ!」と声をかけます。
「そうか、お風呂ここで入れるんか? じゃあ、入れてもらおうか」と
○○さんもご家族も、みんな笑顔になります。
すぐに、訪問入浴を手配しました。
『お風呂に入る』 そんな日常のあたりまえが難しい状況でしたが、、、
『訪問入浴』の時間は、“ほっとする” 身体の緊張も心の緊張も緩む幸せな時間となりました。