和歌山市内の在宅療養支援診療所

お知らせ
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復活!  ①第二の夫

金曜日の午後

15時半過ぎに中嶋さん(仮名)のご自宅に到着しました。

娘さんの車もあります。(週2回の訪問診療、、、娘さんは必ず同席してくれます)

中嶋さんは、肝内胆管癌を患い 他の臓器にも転移があります。

喘息や糖尿病もお持ちでした。

昨年の8月に、娘さんご夫婦が相談外来に来られ、訪問診療が始まりました。

それから、半年が過ぎました。

ご主人はお仕事を続けながら、一生懸命に介護をしてくれています。

  

いつものように、玄関で声をかけてお部屋にうかがうと

襖ごしに、いびき声が聞こえます。

ん? いつもと様子が違う?

  

傍にいた娘さんは

「14時頃、ヘルパーさんが来てくれて、その時は話してたけど

さっきから、いびきかいてよく眠ってるんよ」と言われました。

  

中嶋さんに声をかけますが、うっすらと開眼したまま反応がありません。

口も半分開き、舌が落ち込んでいます。

バイタルサインを測定し、瞳孔を確認して、、、(とくに異常はありません)

先生も、いつもと様子が違うことに気づき、診察しながら、

「中嶋さん、手を握って~」と声をかけますが、ぴくりとも動きません。

血糖値を調べても正常です。

  

この2週間

「なんかわからんけど、調子、、、悪いかな」と言われていました。

その時は、明らかな症状やバイタルサインの変化はありませんでした。

先生は、仕事から帰ってきたご主人と娘さんに状況を説明しました。

脳梗塞などの前兆かもしれませんが、検査をしないとはっきりしたことは分かりません。

以前、急激に呼吸状態が悪くなり、救急病院を受診した際に、脱水を指摘され点滴を受けたこともあり、、、

ご家族と相談し、病院には行かずにこのまま自宅で様子をみることになりました。

    

訪問車に持参している点滴を開始して、しばらくすると

少しだけ反応があります。なんとなく視線が合います。

声は出ませんが、左手を少し動かしました。

点滴が200㎖程入ると、、、

喉元で少しだけ、『ヒュー ヒュー』と、音がします。

ご主人に吸入薬を口元にあててもらい、私が鼻をつまんで(ごめんなさい)

喘息発作を抑えるための吸入をしました。自分の意志で吸うことができないためです。

しばらくすると呼吸状態も落ち着きました。

 

先生は、その間に訪問看護師の杉本さん(仮名)に連絡を入れて

訪問時の状況を伝え、18時の訪問看護までに

必要な点滴をクリニックに取りにきてもらえるようにお願いしました。

ケアマネージャーの宮脇さん(仮名)には

「点滴をするための支柱台を自宅に届けて欲しい」と連絡をしました。

  

先生と私がクリニックに戻ると

すぐに、杉本さんがクリニックに来てくれました。

必要な点滴や物品を準備しながら、3人で状況確認をします。

杉本さんは、点滴一式を持って

「じゃぁ、行ってきます。何かあったらすぐに連絡します!」と中嶋さんのご自宅に向かいました。

いつもながら、本当に心強いです。私たちも頼りにしていますが

中嶋さんもご家族も、杉本さんを本当に頼りにしています。

   

1時間もしたころ。。。先生の電話が鳴りました。 ビデオ通話です。。。

そこには、意識がもどった笑顔の中嶋さんと杉本さん

そして点滴の支柱台を手配してくれた宮脇さんがいました。

 (宮脇さんも、心配で足を運んでくれたのです)

すると、意識も戻って、「ご飯も食べました」と。

先生と私はちょっと戸惑い気味、、、「もう? 食べさしたん」って感じです。。。

点滴は、ゆっくりと明日の朝まで継続することとしました。

「良かった。良かった」と、胸をなでおろす先生と私に

中嶋さんは手を振ってくれました。

 

翌火曜日の訪問診療

今日は「Helloハロー Helloハロー」と言いながら、先生は部屋に入ってきました。

なぜか先生は、中嶋さんの部屋に入るとき、いつも「最初の挨拶」の仕方を変えてます。

「もう、本当に心配したんやで。良かったよぅ。僕 誰かわかるか?」と言うと

『ふふっ』と笑いながら、ためにためると

「・・・第二の夫・・・」と返事がありました。

冗談も復活です。

  

しばらくすると「どら焼き 食べるわ」と言い

ご主人がテーブルの上に置いてくれていた『どら焼き』を手に取り

中嶋さんはゆっくりと食べ始めました。

むせることなく、お茶も飲んでます。

先生と私はベッドから少し離れたところで、ご家族と話をしながら

食べている状況をそっと見守ります。

 

食べ終わると

「…どら焼きの皮1枚食べるのに、こんなに みんなに見られるってなぁ~」と

つぶやきました。そして、しずかに笑っています。

中嶋さんのいつもの様子に、みんな安心し、笑顔になりました。