和歌山市内の在宅療養支援診療所

お知らせ
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金曜日、お昼にクリニックに立ち寄ると診療情報提供書が届いていました。

訪問看護師さんからの紹介です。

   

先生は、車🚙の中から訪問看護師さんに連絡をとりました。

今の病状や訪問診療に至る経過をお聞きし、急遽伺うことにしました。

とはいえ、本日の予定の訪問診療を終えてからになります。

山野さん(仮名)のご自宅に着いたのは、18時をまわっていました。

    

山野さんは70代の男性です。もともと慢性閉塞性肺疾患があり、肺癌を患っていました。

首や縦郭のリンパ節に転移があり、食道が圧迫されて塞がっています。

水を飲みこんでも、食道で詰まり、口の中に戻ってきてしまいます。

誤嚥による肺炎も起こしていました。

「何とか食べられへんのか?」

「酸素 吸ってるのに この息のしんどさがどうにもならん。。」

山野さんはもどかしさから、イライラして訴えます。

  

先生は、ひとつひとつ かみ砕いて説明していきます。

「病気が原因で詰まっているから食べるのは難しいですね。でも、味わうことはできますよ」と

少量なら口に含んでもいいこと、噛んで吐き出すなどの方法を伝えました。

 

酸素を吸っていても、息苦しさはおさまりません。

薬を飲めないので、先生はモルヒネ(医療用麻薬)の注射の話をしました。

皆さん『モルヒネ』と聞くと、ギョッとされるので、丁寧に説明します。

山野さんとご家族に、自宅で「できること」と「できないこと」を説明したうえで

「魔法は使えやんのよ。ごめんよ」と話し、本日の訪問診療を終えました。

モルヒネのお返事は翌日にもらうことにしました。

山野さんは、その夜 大好きなビール🍺と餃子を数口でしたが、口にすることができました。

息も絶え絶えでしたが、味わうことができたのです。

   

翌日、土曜日に先生は訪問し、山野さんと奥さんからお返事をもらい

モルヒネの注射を開始しました。

注射を開始すると「いっぺんに楽になった」と、呼吸も落ち着き、イライラも解消し

山野さんの表情は穏やかになりました。

 

水曜日に伺うと音楽♪が流れています。嵐です。(奥さんは嵐の大ファンです)

穏やかに過ごされています。

時折、喉元に唾がたまり辛そうです。ご自分で、何とか吐き出しています。

「外は天気悪いんか?」「お尻痛い」「ちょっと横向くわ」 

体の向きを変えて、背中や足をさすっていると眠り始めます。

いつも通り、退室時には手を振って見送ってくれましたが、明らかに病状は進んでいました。

    

金曜日の朝、ほとんど眠っています。奥さんが、ずっとそばについてくれています。

訪問看護師さんが、温かいタオルで顔を拭いてきれいにしてくれていました。

先生が、「山野さん、わかるかい?」と耳元で声をかけると

目は閉じたままですが、大きく3回 頷きました。

かなり厳しい状況で、いびき様の呼吸が続いています。

  

娘さんが、お母さん用の食事を作って持って来てくれました。

(奥さん曰く、『自家製ウーバーイーツ』です)

山野さんから少し離れたところで、奥さんと娘さんお二人と一緒にお話をします。

奥さんは、「最期は手を握っておいてあげたいと思って。。。」と涙ぐみます。

「今までは、いつ 救急車呼んだらいいのか、私一人で判断せんとあかんかった。

それがえらくてね。今は、こうやって訪問看護師さんにも、先生にも相談できるし

皆さん来てくれるから、気持ちが楽になったんよ」

「夜がねえ、、、私一人でしょ。怖いんよね。いつ呼吸止まるかわからんから。。。

呼吸してなかったらどうしよって思うしね。

孫が小さいから、娘たちも夜は来られないしね」と。

  

先生は、娘さん達に「できるなら、今晩泊まってもらった方がいいね」と伝えました。

「あと、どれくらいですか?」と、娘さんから質問がありました。

先生は、「今日明日の可能性はあると思うけど。。。お家でいるとね、みんなぁ頑張るのよ。

ぼくらの予測をいい意味で超えていくんよ。

おそらく数日かなと 思っても、そこから1週間以上頑張った人もいるしね、、、

だから、 なかなか どれくらいって言いにくいんよ」と言いました。

 

命の終わり…それは神様にしか分かりません。

ご自宅で、お看取りをさせてもらっていると

『逝くタイミング』は、ご自分で決めているのかと思うことがよくあります。

そんなお話を、奥さんや娘さんたちとしました。

 

会話することは難しいかもしれませんが

奥さんや娘さんたちがそばにいることは、声や気配、触れることで

十分に伝わっています。

それが山野さんの生きる力や安心につながっています。

  

3時間後です。訪問看護師さんから連絡がありました。

すぐに駆けつけます。

最期は、奥さんと3人の娘さんが揃っていました。

女性4人に囲まれて、手を握ってもらって。。。そして静かに呼吸は止まりました。

山野さんは皆が揃ったタイミングを選びました。

きっと心強かったと思います。

  

訪問診療を開始して1週間でした。

私たちが関わらせていただいた時間は、わずかです。

それでも、ご家族は

「こうして、先生たちが来てくれて、自宅で最期まで過ごすことができてよかった」と言ってくれました。

山野さんとご家族が頑張って治療を続けてこられた時間。。。

その時々の思いを考えながら、訪問診療を終えました。