山本さん(仮名)70代の女性です。胆のう癌で、腹水も溜まっています。
入院中に比べると、お腹の張りも減り、太ももの隙間もできて、歩きやすくなったと、、、
それでもベッドから起き上がるのは、自分のペースで、ゆっくりとです。
「動けなくなったらいけないからね」と、散歩に行く努力をしています。
そんなある日 午前の訪問中に、娘さんから先生に連絡が入りました。
ご近所に届け物をしようと、玄関を出たところ、アスファルトの上で転んだのだそうです。
傷口が深いから、往診に来てほしいとのことでした。
午前の訪問が終わったところだったので、すぐに駆けつけます。🚙
先生より一足先に私が部屋に入っていくと
右の目元に、、、皮がめくれた傷が1か所
そして、右の鼻の孔の下側に、1㎝弱のぱっくりと切れた傷があります。
出血していないのが幸いです。
打撲したと思われる鼻の下はかなり腫れています。
転んだ時の状況や傷の具合を確認しながら、バイタルサインを測ります。
(転んだら悪いからと、娘さんは付き添ってくれていたのですが、玄関の鍵をかけていた
その一瞬のできごとでした)
山本さん 「、、、この傷、先生見たらどうするって言うかな?」と不安げ。
私 「そうねぇ、、、『縫おか』っていうと思うよ。 3針ぐらいかな。。。」
山本さん 「縫うの?」
私 「、、、そう、、、外科医だから。。。多分ね」
そんな、やり取りをしているところに、先生が入ってきました。
顔を見るなり、、、
「ぱっくり切れてるなぁ。。。縫おか!」と。
「え~!縫うの~😭」と山本さん。
診察をしながら「縫った方が早くきれいに治るよ」と、先生が言います。
山本さんは、翌日、車で3時間ほどかかる息子さんの家に行く予定にしていました。
「息子が建てた新築の家🏡を見ておきたいから」と。
娘さんとお孫さんが一緒について行ってくれます。
山本さん、、、覚悟を決めました。
先生は、ガーゼにつけた麻酔のゼリーを、傷口に塗ります。
少し待ってから、洗面台で傷を洗ってもらいます。
こんな時のために、先生は、縫合セットのボックスを持ち歩いています。
縫合する器械や、麻酔の準備をすると、
ベッドは処置用ベッドに、オーバーベッドテーブルは処置台に早変わりです。
傷口を消毒すると、穴をあけた処置用シーツを顔の上にかけ、目隠しをします。
周囲を麻酔すると、生理食塩水で傷口を洗います。
先生は、『外科医モード』になり、集中しています。
私は緊張する山本さんの手を握りながら、、、
、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
3針 縫いました。
「ハイ、これで終わり。お疲れ様!」と先生。
処置を終えた先生は、リビングで娘さんとお話をしています。
私は、山本さんと話します。
「お疲れ様でした。緊張したねぇ。先生、きれいに縫ってくれてるよ。
ふつうは、『病院へ行って、診てもらって』って言うけど。
うちの先生、自分で縫えるしね」と言うと
すかさず、「外科医だから(笑)」と山本さん。
「明日からお出かけする予定なのに、大変だったね。でも、骨が折れてなくてよかったよ。
気をつけて行ってきてね。お腹が大きいから、足元見えにくいし
歩くときは、娘さんやお孫さんの腕を借りてね」とお話しました。
先生は、「明日、出かける前に、傷の状態 見に来るわぁ」と。
山本さんは、私の方を見て小さな声で「。。。外科医だから、ね!」と笑っています。