先生が、濱さん(仮名)に、声をかけます。退院してきた翌日です。
「濱さ~ん、今日はビール🍺飲むんかい」
先生は退院当日に奥さんと娘さんから、濱さんが大のビール好きだったことを聞いて、
飲ませてあげよう!と提案していたのでした。
「飲ませていいんですか?」お二人は顔を合わせてキョトンとしていましたが。。。
「キリンかぃ?」
・・・・・
「アサヒかぃ?」
濱さんは、うっすらと目を開けて、頷きました。・・・『アサヒです!』
呼吸状態が悪く、酸素も10ℓ/分で吸入しており、黄疸も一気に強くなっています。
一般的には、危篤状態です。
それでも、しっかりと反応してくれました。
奥さんと娘さん、息子さんと共に
『今日の夜は、家族で退院祝い。。。大好きなビールで 乾杯です!』
5日前のこと。。。
奥さんと娘さんが、濱さんの「家に帰りたい」を叶えるために
クリニックの相談外来に来てくれました。
お話をしていると、奥さんも娘さんも、介護のお仕事をされていることがわかりました。
私たち医療従事者から見れば、介護職がお二人…本当に心強い限りなのですが
奥さんは「主人が『帰りたい』っていうから、何とかしないとね。
そうは思っても不安が大きいんよ。
他の人をみるのと、いざ自分ところで(主人を)みるのでは、やっぱり違うわね。
痛み出したら、どうしたらいいかって思うし。。。」と悩まれていました。
娘さんは、そんなお母さんの様子や今までの介護状況から
「母が一人で抱え込んで疲れてしまわないかが、心配なんです」と、お気持ちを話してくれました。
先生は
「在宅医療として何ができるのか」
「家での過ごし方」「痛みの調整をどうするのか」などについて、具体的に説明をしました。
色々なお話をしながら、気持ちを聴かせてもらっていると
「何とかなるかな。とりあえず、帰ってみよ! 主人が帰りたいって言うてるしね」と
奥さんは決心してくれました。
ご家族のこの時の決心(覚悟)があり
家に帰ってきたからこその『家族みんなで飲むビール🍺』があるのです。
翌朝、訪問するとすぐに奥さんが
「昨夜は家族7人、350㎖のビールを分け合って、乾杯🍻したんよ。
もちろんアサヒね。 父ちゃんも、スポンジブラシで飲んだんよ」と教えてくれました。
奥さんと娘さんは、夜も一時間ごとに交代しながら、足のマッサージをしてくれています。
その甲斐あって、浮腫んでいた足はすっかり、スマートになりました。
厳しい状況の中でも、ご家族は『一緒に過ごせるこの時間』を大切にしています。
それは『父ちゃん』にも伝わっています。