和歌山市内の在宅療養支援診療所

お知らせ
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愚痴をこぼせる相手

がんの再発が原因で、食事や水分が喉を通らなくなりました。

通院していた病院で胃瘻からの栄養剤注入やポートからの高カロリー輸液を提案されましたが

延命処置はいらないと断ったとのこと。

それならばと在宅医療を提案され、私たちのところにご紹介を頂き、ご自宅に伺うこととなりました。

 

初めて訪問した夏の日... ちゃぶ台の前の座椅子に座っていました。

食事も食べにくくなり、治療がなくなったと、気落ちしているのが伝わってきました。

 

今までの経緯や治療に対するお気持ちについて、先生としっかりお話をしています。

胃瘻や高カロリー輸液を断った理由も教えてくれました。

 

「何かしたいことはありますか?」と先生が尋ねると

少し考えて「もう1回、ボウリングしたいなぁ... 」と。

以前、ご夫婦でボウリングをされており、マイボールとマイリスタイ(手首の保護器具)も持っていました。

何と最高点は258点‼

 

先生は、今の病状を踏まえて

『ボウリングをする』という目標のために、ポートを造設し点滴を行うことを提案しました。

 

「もう何もしていらん」と言っていたのに、すぐに「じゃぁ。やってもらうわ」と。

あっという間の返事に、ちょっと心配になります。

 

なぜ、お気持ちが変わったのかを確認しました。

「このままじゃ、餓死する。体力つけて、ボウリングしたいからなぁ... 頑張ってみよか」と

笑顔で答えてくれました。

 

在宅中心静脈栄養法(HPN)を開始して、約半年が経ちました。

今は、週に5日間 点滴を行い、週末はお休み。

訪問看護師さんが、点滴の管理や身の回りの援助を行ってくれています。

 

 

とある冬の日、訪問看護師さんから連絡がありました。

 週末、調子が悪くて食べ物や水分がほとんど摂れておらず、

 胸の音もよくなく、痰が絡んでいると。

「最期は、分らないように眠らせてくれ」と弱気な発言も... 

 

急遽予定を繰り上げ、往診に伺うことにしました。

いつものように、こたつの前に座り、漢字のクロスワードパズルをされています。(少し拍子抜けした私と先生)

 ○○さん(訪問看護師)から、連絡もらったんよ。調子はどう?」と尋ねると

「そうなんや。えらかったんや。○○君にも言うたんやけど、‥‥‥‥‥‥(中略)‥‥‥‥‥‥」と。

週末からの様子について、話してくれます。いつもと変わりがありません。

(訪問看護師の○○君と話したことを、いつも教えてくれます。)

 

体温や脈拍、血圧、呼吸数を測って、胸の音を聴きました。

痰の絡んだ音はしていません。かなり吐き戻しをしたとのこと。

 

○○君に、朝から愚痴聞いてもろたんや・・・」と、ボソっとつぶやきました。

訪問看護師 ○○君への信頼は絶大です。

 

『食べ物を口から食べる』 そんなあたりまえのことが難しい病状です。

ご自分で食べられそうなものを探しながら、吐きながらも食べている。

すごいことです。

 

ご家族の支えはもちろんですが、

「愚痴をこぼせる」「弱音を吐ける」

それをしっかり聴いてくれる、信頼できる訪問看護師さんやケアマネージャーさんがいるから、頑張れているのだと思います。

 

 ケアマネージャーさんに、急遽、手配してもらった電動昇降座イスも

「めちゃくちゃ、ええやろ!!秘密兵器やな」と、とても喜んでいました。

 

先生と私は「落ち着いてて、良かったよ...」と、その日の往診を終えました。