松尾さん(仮名)は80歳の女性で、下行結腸癌の手術後に足の付け根のリンパ腺に再発を認めました。
足の血液の巡りが悪くなり、両足とも浮腫んでいます。
訪問開始初日、松尾さんが起き上がりしやすいようにと介護用ベッドを導入しました。
それから、訪問看護師さんに両足のリンパマッサージをお願いしました。単なるマッサージではなく
理学療法という治療です。
先生はベッドの横の椅子に座り、松尾さんと話をしています。
松尾さん 「今日は、友達が野菜を持って来てくれたんです。モルヒネ。体にいいんですよ」
先生 「ん? モルヒネ??」
松尾さん 「そう、モルヒネ」
(私:「う~ん?? 何の野菜かな…」)🥬
先生 「あっ! モロヘイヤか?」
松尾さん 「そうそう、モロヘイヤ。モルヒネと違うね」
先生 「松尾さん 『モルヒネ』やったら、大変なことになるわ」
(みんなで笑い。。。)
松尾さん 「モロヘイヤ、お味噌で和えるんです。ねばねばが体にいいしね」
「・・・病院で、後3カ月ぐらいって言われたんです。あれから2カ月経ちました。。。
先生、最期は薬1本ですっと逝かせてくださいね」
(『薬1本で逝かせて』は、『苦しみたくない』ということでしょう)
先生 「そんなことしたら、僕 捕まるわ(苦笑)…」
次に訪問すると、訪問看護師さんがリンパマッサージをしてくれていました。
「先生たちとバトンタッチするね」と、訪問看護師さんは退室しました。
松尾さんは、すくっと起き上がって車いすにのりました。
浮腫みが少し改善し、足首の節が見えています。
「マッサージしてもらうようになって、ほんとに足も楽になったんよ」と…
足の浮腫みのために歩きづらくなっており、転倒を避けるために、車いすを足漕ぎしながら
バリアフリーのマンションの屋内外を自在に動いています。
先生 「眠気が強くなるって言うてたから、痛いときに飲む薬 変えたけど、どう?」
(痛み止めのオプソを、3日間で1度しか使っていません)
松尾さん 「先生、この薬使ったら、すーっと逝ってしまいませんか?」
先生 「逝けへんよ。そんな薬出せやんわ。出したら大変なことになるわ」
松尾さん 「この前はね『逝かせて』って言うたけど、おかしなもんでね。
逝きたないんやねぇ。皆さん毎日来てくれてね。お話したりね。嬉しいわぁ。
・・・病院の先生からは、、、お彼岸の頃かなって言われてたんです。
お彼岸もこえたし、もう少し頑張れる気がしますね」
腰回りの浮腫みも増えてきて、今まで履いていたズボンは入らなくなりました。
自分で、ズボンのお直しをしています。
ウエスト部分をほどいて、切り込みを入れて、布をあてがっています。
長年、仕立て直しのお仕事をされてきただけあります。
「夜になると人の出入りも少し落ち着くからね。ちょっと縫物でもしよかなって思ってね」
初めて伺ったときも、何着もの仕立ての発注を受けていました。
「注文を受けた分はちゃんとやりきる」と言い、1,2週間ほどであっと言う間にこなしてしまいました。
4,50年は稼働(はたら)いていると思われる年季の入ったB社のミシンが、ベッドの奥の窓側にあり
手入れを加えながら松尾さんとともに頑張ってきたことが伺えます。
裾上げ1枚300円という破格の安さは、松尾さんのお人柄の現れでした。(驚きでした。。。)
日々、気持ちは揺れ動きます。
動くことも辛くなってきています。
それでも毎日。。。『一生懸命』です。