和歌山市内の在宅療養支援診療所

お知らせ
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パパの日常 ①毎日の日課

夜10時ごろに休んで、深夜2時頃に目覚めます。

朝刊がくると、台所の食卓で新聞を読みます。

新聞に掲載されている俳句や川柳を、紙に書き写します。

タバコ🚬を吸って一息。(娘さんとの約束でタバコは1日4本…守っています)

野村さん(仮名)(80代男性)の、朝の日課です。

この日課で一日が始まり、、、生活習慣を大切にしながら

野村さんは娘さんご夫婦と一緒に、自宅で過ごしていました。

  

ところがある日、呼吸状態が悪化し、先生が付き添って病院に搬送し🚑、入院することになりました。

「パパが入院したまま亡くなるようなことがあれば、後悔してしまう。。。」と

娘さんは泣いていました。

1週間ほどして、入院先の主治医の先生から

「呼吸は少し落ち着いてきている」と連絡を受けた娘さんは

自宅へ連れて帰る決心をしました。

   

自宅に帰って来ましたが、思いのほか しんどそうで… とても落ち着いているとは。。

慢性閉塞性肺疾患、心不全、そのうえ肺癌もあり

酸素吸入だけで呼吸状態が改善するには難しい時期になっています。

先生は娘さんご夫婦と相談し、息苦しさやしんどさを取り除くために

医療用の麻薬の持続皮下注射※1を始めることにしました。

※1 医療用麻薬は国内で6種類承認されています。塩酸モルヒネには痛みを取り除くだけでなく、低容量で呼吸苦を緩和する作用があります。

  

それでも、呼吸状態はなかなか安定せず

ベッドの端に腰かけたまま、横になることもできません。

娘さんは、お父さんの体を抱きかかえるようにして、夜通し過ごしています。

一向に息苦しさが改善しないので、先生は娘さんご夫婦と相談し

COナルコーシス※2に陥って、息が止まってしまうかもしれないことを覚悟のうえで、酸素流量をあげ

リザーバーマスク(高濃度の酸素を吸入できるマスク)に変更し、モルヒネの量も増やしました。

※2 COナルコーシス:慢性閉塞性肺疾患の患者さんは、普段から低い酸素量で生活できる状態になっています。多量の酸素吸入を行い、高い濃度になると、もう頑張って呼吸をしなくていいよと呼吸中枢が勘違いを起こし、ブレーキをかけます。その結果呼吸が減少したり停止し、二酸化炭素がたまり、意識が低下してしまいます。

 

娘さんご夫婦や私たちの覚悟とは裏腹に、思いのほか呼吸状態は落ち着きました。

意識もしっかりしています。

やっと、頭元を30度ほど上げたベッドに もたれて横になることができました。

    

野村さんは、自分でコップを手に持って水や栄養剤を飲んだり、アイスキャンデーを食べたり、

娘さんの作ってくれた魚の煮つけも、食べることができるようになりました。

  

ある朝訪問すると、野村さんはベッドの端に腰かけています。

テーブルの上に新聞を置き、日課の『書き写し』をしています。

普段は手が少し震えますが、書き写しているときは手も震えません。

集中力がすごいです。そして、達筆です。

(お商売をされていたお店の一角に、書き写した用紙は保管されています。

その用紙の多さに、『継続することの大切さ』を教えてもらいました。)

訪問診療を終えて「また、明日ね」と、野村さんに声をかけると

いつも通り にこっと笑って、右手を軽くあげてくれました。

   

それから、2週間……

野村さんも頑張っていますが、お世話をしてくれる娘さんも頑張っています。

野村さんは、いつも通り2時頃から目覚めて座って過ごしています。

昼夜を問わずお世話をする娘さんは、疲労がたまってきます。

そんな娘さんを、ご主人(娘婿)は、やさしく気遣いながらサポートしてくれています。

家族一丸となって、『パパの日常』を大切にしています。