林さん(仮名)80代の女性です。
右の肺に癌があり、右の恥骨や坐骨への転移もありました。
元々はA病院の外来に、2か月に1回通院していましたが
受診に行くのも辛いということで、訪問診療の依頼をいただきました。
はじめてご自宅に伺ったときは、体の右側の痛みとしびれ、しんどさで
畳の上の座椅子に崩れ落ちるようにもたれていました。
最近は、痛み止めの調整の効果もあって、
訪問当初に入れてもらった電動式の昇降座椅子に座って
上手に過ごしています。
しんどくても、いつもパジャマ姿ではなく、きちんと着替えています。
トイレや洗面所にも、つたいながら なんとか自分で行っています。
「ちょっと、トイレに行ってくるわ」と。
昇降座椅子のボタンを押して、立ち上がりやすい高さまで上げて
吸入している酸素チューブは、「邪魔だから」と、ポイっと外して動きます。
転ぶといけないので、壁に手を置きながら、ゆっくりと移動しています。
トイレから戻ってきて、昇降座椅子に座り、
酸素チューブをつけると、、、一息ついて、、、
ボタンを押して、昇降座椅子の高さを下げます。
私は林さんの左側(定位置)で、血圧や脈拍、呼吸状態などを観察します。
先生の定位置は林さんの右側です。
先生の「今日、(お昼)何食べたんな?」で始まり、「○○のコロッケ2つ!」
「2つも?!おいしかったかい?」… 二人の会話が続きます。
漫才のようです。
先生が「ぼけ」担当で、林さんが「つっこみ」担当です。
会話の内容は、多岐にわたり。。。
亡くなった20歳年上のご主人のこと(林さんがご自宅で介護をしました)
このあいだ家族で、木曽路に食べに行ったこと
親孝行な息子さんのこと
お嫁さんが作ってくれたお弁当のこと(喜んでました)
好きな韓流ドラマのこと(DVDかなり持っています)
楽しそうに、笑いを交えながら話してくれます。
(お話を聴いていると、辛抱強くも ユーモアにあふれていることが伝わってきます)
あるときは「・・・本当に、男って勝手よなぁ」と林さん。
「すいませぇーん」男性代表で先生が謝ります。
先生との掛け合いの最後は
林さんが笑いながら「もう、やってられやんわなぁ」と、私の方を見て終了。
ある日のこと、、、
息苦しさが強くなり、かなり辛い状況です。
昇降座椅子に座りに行くこともできません。
「もう、、、先生と冗談 言いあえやんなぁ」と、ぽつりと言いました。
それほど、しんどいということです。
先生はエコー(超音波)の検査をします。
林さんと相談し、自宅で胸水を抜くことになりました。
訪問看護師さんも付き添ってくれます。
「これ(胸の水) 抜いたら、ちょっと楽になるんかい? 頑張るわな。。。」
ゆっくりと時間をかけて胸水を抜かないといけないので
後の観察を訪問看護師さんにお願いして、先生と私は退室します。
「また、明日ね」と言うと、頷きながら「明後日は?」と返事が返ってきます。
「。。。しんどい時ほど。。。冗談でも言わんと、やってられやんわ」と林さん。
流石です。